第9話 真っ暗闇に無数の目が光る、“コウモリ団子”を撃退せよ

吸血鬼のような害獣よ、どこだ

その日、タカシ隊員はいつになく険しい顔をしながら、
特殊車両(高所作業車)に乗り込んだ。

(今日の戦いは大掛かりなものになる)

相手は、灰色をした“不気味なマント”を持っている。
空を自由に飛ぶことができるのだ。

その“空中戦”に挑むためには、
2階以上の位置に自分の身を置くことができる
特殊車両で向かうしかなかった。

戦いの舞台は閑静な住宅街に佇む一軒家。
突然の大掛かりな装備に、周囲住民も一時騒然となり、
空の中に浮かんだように見える
タカシ隊員の勇姿を見守った。

 

「どこだ……」

タカシ隊員は焦った。
入り込んだであろう「通り穴」が
一向に探し当てられずにいた。

汗ばむ腕に巻かれた時計に目をやると、
捜索からすでに1時間半が経過。
6月の湿った暑さが容赦なく襲う中、
必死に侵入口となる穴を探した。

 

それはまるで、嵐の前の静けさのようだった。

 

相手の生態を知り、戦いに挑む

依頼主は、天井裏に数匹のコウモリが
棲んでいるようだと訴える。

それが昼に晩にバタバタと飛び回り、
時にキーキーという鳴き声を発するため、
心が落ち着くことがないという。

 

コウモリ──学名「アブラコウモリ」は、
通称“家コウモリ”ともいわれ、
日本人にとって最も馴染みのあるものである。

日没から30分くらいすると、
農地や河川などがある地域の上空を旋回しているのは、
4〜6月が出産準備期であるため。

体に栄養を蓄えようと、
虫を食べなくてはいけないからだ。

さらに7〜8月になると出産〜子育て期、
11〜3月は冬眠期となる。

個体の寿命は3〜5年といわれ、
出産は毎年行われる。

 

よって、以前タカシ隊員が退治に出かけた
とある施設では、
なんと200〜300匹のコウモリに遭遇したという。

 

とにかく、7月の出産期よりも前に撃退せねば。

 

通り穴を発見!! いざ出撃!!

「あったぞ!」

寡黙なヒーロー・タカシ隊員が、
思わずそう漏らし、拳を握った。

(こんな小さな穴から入ったのか……)

その穴とは、直径わずか1.5cmほど。
この小さな隙間から入り込み、中で繁殖していく。

身を潜めるためという生態だからなのだろう、
大きな穴に正々堂々と入っていく姿は
見たことがないという。

 

これは知識のない者が見ても気づくまい。

 

「いざ〜っ!」

 

タカシ隊員は、仲間のバスターズと共に、
灰色のマントを纏った相手の“アジト”に踏み入った。

 

真っ暗闇の中で少し目がなれた瞬間、
百戦錬磨のタカシ隊員ですら、少しひるんだ。

 

コウモリは天井裏の床面に
団子状になり寄り添い合い、
無数の光る目が、こちらを見ている。

 

タカシ隊員は一心不乱に、
天井の中の物体を外界へ放つため掻き出した。

慌てたコウモリたちも、
バタバタと一斉に飛び上がる。

 

右往左往するコウモリたちは、
時折タカシ隊員の顔面にもぶつかってくる。

「うわあ〜!!」

タカシ隊員も痛手を負う。

 

しかし、コウモリ撃退の方法は
“これしかない”のだ。

実は奴らは、害虫を食する益獣でもあるため、
駆除や捕獲をしてはならないと定められている。

とにかく追い出すことが目的であり、
その侵入口を塞ぐことが解決へとつながる。

 

20〜30匹のコウモリはアジトを追われ、
一目散に逃げていった。

壮絶な戦いも、これにて落着となった。

 

「お疲れ様でした」

仲間のペストバスターズに声をかけられると
タカシ隊員はこう返した。

「コウモリ退治はいい。
1匹足りとも、
命を奪わなくていいのだから」

 

勇敢でありながら、心の優しい
タカシ隊員なのであった。

 

敵はいつまた、やってくるかわからない。
これからも見守りは続く。

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