第1話 嗅覚レーダー作動! 身を潜めるヤツの正体を暴け

いざ、初動捜索へ!

 

何者かが侵入している──という通報が入った。

ペストバスターズの司令塔・サー隊長は、
一員の中から、迷わずあの男を招集した。
「タ〜出番だ」

出動命令を受けたタ〜隊員は、すぐさま出動車で現場へと急行した。

「私もう怖くてさ、昨日なんか一睡もできやしなかったんだよ。
予想ではあの天井裏にいると思うのさ。
でも変ねえ、昼間になると静かになっちゃう……」

出迎えた奥様に挨拶を済ませると、
タ〜は、目を閉じて考え込むような仕草をした。

「タ〜さん!?」

「あ!なんかの物音がすんのね?
それなら黙らなくちゃね!」

そう気にかけた奥様に、タ〜隊員が口を開いた。
「いえ、物音は何も……。
しかし侵入者の正体がわかりましたよ」

「え?わかったのかい?
玄関入って、ちょっとうろうろしただけで?(笑)」

「ええ、わかりました。
しっかりとヤツの正体をキャッチできました」

「この家に棲みついているのは」

(何者なんだい!?)
固唾を飲んで待つ奥様に、タ〜隊員はこう言い放った。

「この家に棲みついているのは、」
「クマネズミです」

「……やだ〜、あはははは!」

家主の女性は笑った。

「な〜んでそんなことがわかるのさ(笑)
目の前に現れたわけでもなし、
音が聞こえたわけでもなし。
第一タ〜さん、なんかの道具も使わずに
なんでクマネズミだって思ったんだい?」

そう訊かれたタニー隊員は自分の鼻を指差した。
「道具は、私自身です」

きょとんとする奥様に、こう続ける。

「私の鼻のネズミレーダーは、7割の的中率。
そして目で確認し、肌で感じる。
五感すべてで侵入者をキャッチするんですよ。
これはまちがいなく、
ハツカネズミでもドブネズミでもない、
クマネズミの臭いだ!」

 

“下足痕”ならぬ、足跡を追え!

 

タ〜に反応するネズミレーダーにより、
その足跡を確認する作業にはいった。

ヤツらの性格と行動パターンはわかりきっている。
クマネズミは気性が荒い。
普通は人間を見ると逃げていくものだが、
ヤツらも生きるために必死。
時に攻撃してくることもある。危険な生物でもあるのだ。

 

恐らくヤツらは、
住宅の裏手に広がる畑からやってきて、
雨樋をつたって2階、そして屋根裏へ侵入しているはずだ。
そして人目を避けるように物陰から物陰へと移動しながら、
お米やお菓子などを食糧としている。

 

「天井裏を見させていただきます」

 

タ〜隊員が押入れの襖を開け天井裏を確認しはじめた。
ネズミはいないようだ。懐中電灯の明かりをつけてみる。
すると、そこにはしっかりとした足跡が確認できた。

(足のサイズは大きい。間違いない。これはクマネズミだ)

しかしおかしい。

臭いもする。足跡もクマネズミのものだが、
大きな足跡の他に小さな足跡も発見できる。

「奥様、クマネズミで間違いないと思います。
天井裏に足跡を発見しました。
ただ──」

「ただ?」

そこでタ〜隊員は言いよどんだ。

「足跡が1匹のものではないんです」

「ほう、何匹もいるのかい?」

その小さな足跡は「子供」のものであることも見逃さなかった。

「実はここで子供を生んでいます。
二世帯で暮らしているものと思われます」

「二世帯!?
人んちを勝手に二世帯住宅にするなんて!」

奥様は憤った。

「場合によっては……三世帯。
この家がよほど棲みやすかったのでしょう」

「この家の天井裏は広くて走り回れる。
この家はまるでネズミたちの遊園地だった。
言うなればここは、ネズミーランドだったのです」

ディズニーランドにかけた渾身のギャグだったが、
ネズミが1匹ではないという
衝撃の事実を知った奥様の耳には入らなかったようだ。

 

相手に気づかれないよう、罠をしかける

 

初動の捜索を終え、事務所に戻ったタ〜隊員は、
捕獲のための作戦を考えていた。

クマネズミの侵入ルートは確認済だ。
しかし、どこに罠をしかけるべきか──。

通常、ネズミの捕獲のためには、毒エサと粘着板が使われる。

とはいえ、どこにでも配置すればいいというものではない。

 

毒エサには、ネズミの喉が渇くように仕組まれている。
よって、毒エサを食べたネズミは、
水を求めてふらふらと歩き出す。
水道のパイプの滴、はたまた畑まで行くことを考えるだろう。

もちろんそこにたどり着くことなく死に至るのだが、
そこに粘着板を設置しておきたいのだ。

つまり、毒エサからネズミが行く方向を考えて粘着板を設置する。
そうすることによって、ネズミはその上に倒れる。
“安らかに眠っていただく”ための配慮だ。

「毒エサをしかけるんなら、
ちゃんと置けるように物をどかしておこうか?」

「いえ、いつものままの状態がいいんです」

「どうしてさ」

「ネズミは敏感です。
いつもと違う状態だとすぐに気づきます。
そうした刺激を与えてしまうと、怪しまれてしまうんです」

「なるほど〜!」

警戒したネズミは毒エサを避ける、または住まいを変えることもある。
敵の性格を知らなければ倒せないのだ。

タ〜隊員は、万全だった。

 

敵が罠にかかった

 

数日後、タ〜隊員は作戦が成功したかどうかの確認に訪れた。

「大丈夫です、作戦は成功していました」

「本当かい!? ああ〜よかった!
タ〜さんが来てくれるまで気が気じゃなかったんだよ」

ネズミとタ〜隊員の、心理戦の末の勝利。
こうして一連の戦いは終わった。
“出口”として敢えて残しておいた進入路も塞いだ。

 

「これでやっと安心して暮らせるよ。
しかしチュウチュウっていう鳴き声は
聞こえなかったんだけどねえ」

という奥様に、心のなかで

(ネズミはチュウチュウと鳴くのではない。キーキーだ)

と思うタ〜隊員なのであった。

 

「それにしてもさ、
クマネズミの臭いってのはどんなんだい?」

「そうですね、腐ったゴミを燃やしたような……」

「腐ったゴミを燃やすのかい?
そんな強烈な臭いなのに、
私にはわからないなんて不思議だねえ。

じゃあさ、じゃあさ、ハツカネズミは?」

「ハツカネズミは……」

 

敵はいつまた、やってくるかわからない。
これからも見守りは続く。

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