第8話 ホラー映画風に脚色してお届けする、吸血害虫「トコジラミ」v.s.タ〜隊員

「お腹すいた、血が吸いたい─…」

コロナによる制限が緩和された。
日本にも、海外から多くの旅行者がやってくるようになった。

楽しげな旅行者たちで、街は活気を取り戻した反面、
ある問題にも直面している。

トコジラミだ。

海外からの旅行者の“旅行カバン”に忍び込み、
日本列島に上陸している経緯はわかっている。

水際で食い止められればいいのだが、
日本政府もそこまでの対策には乗り出しておらず、
現在ではトコジラミ被害が拡大しつつある。

 

トコジラミはその昔、江戸時代にやってきたとされる。
しかし第二次世界大戦後、
殺虫効果の高い薬剤の開発により一度は撲滅に至った。

 

ところが──

これまでの薬剤にはビクともしない屈強な生態となり、
ゾンビのような「スーパー・トコジラミ」として
再び日本に襲来しているのだ。

彼らの目的はただひとつ。
「血が吸いたい、血が吸いたい、血が吸いたい」

 

ペストバスターズのミッションは、
夜間、真っ暗な室内で血を求めてうごめく、
トコジラミを撃退することだ。

 

いざ!出動!!

 

「トコジラミさん、出ておいで〜」
タ〜隊員との不気味な“かくれんぼ”

海外からの旅行者
旅行カバン、スーツケース
ホテル、旅館

 

ホテルの一室。
クロゼットの扉をヌッと開け、
タ〜隊員はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

今回は、ダーク・タ〜隊員の登場だ!

 

右、左、右、左。
上、下、上、下。
ぐるり、ぐるり。

眼球だけをゆっくりと動かし、
辺りをじっとりと見まわすタ〜隊員。

潜めた声で“愛しの人”に囁いてみる。

「ど〜こかなあ〜?」

「返事してえ〜」

「トコジラミさあん」

「恥ずかしがり屋なのかなあ〜」

「は〜やく出てこないと、
怒っちゃうよぉ〜」

 

(チッ……)

 

ダーク・タ〜は舌打ちをして
見つけられなかったことに苛立った。

 

吸血害虫は、闇を好む。
電光など明るさの元からは姿をくらまし、
闇の方へ闇の方へと身を潜める。

 

ダーク・タ〜は、一旦部屋のほうへ戻った。
お客様から「虫に刺されて血が出た」という報告。
ベッドに近づいて白いシーツをチェックすると、
針の穴ほどの血がついていた。

(いる……ヤツは絶対にいる)

それを確認すると、ダーク・タ〜は、
トコジラミが潜んでいそうな箇所を
一つひとつ隈なく探し始めた。

「さあ〜、かくれんぼのはじまりだよ〜」

 

ベッドの……フレームの……その裏側の……木と木の継ぎ目
テレビ台の……木製扉の……内側の……蝶番の隙間

トコジラミは下敷きの厚みぐらいあれば
そこに身を隠すことができる極小害虫である。

 

「本気で探しちゃうよ〜」

 

悪魔のような姿をしたトコジラミの集団

かくれんぼ開始から40分。

ダーク・タ〜が(フフッ)と笑みを浮かべた。

 

「見ぃ〜つけた」

 

壁紙と床の縁に多少の隙間があり、
そこに隠れ遅れたトコジラミが1匹いた。

 

「トコジラミさん、見ぃ〜つけた」

 

さらにその周辺を凝視すると、
壁と壁のコーナー部分の隙間に
数十匹ほどのトコジラミが息を潜めてじっとしている。

ゾンビの吸血害虫は、掃除機などで吸おうにも、
ガッチリと捕まりビクともしない。

ここは殺虫薬剤でひと思いにいくしかない。

 

トコジラミは、五円玉の穴ほどの小さな害虫で、
カブトガニのようなイカツイ体をしている。
尻尾が異様に長い。
通常は半透明な薄茶色をしているのだが、
眼の前に現れたトコジラミは──

(おまえ、血を吸うとるな)

赤みを帯びていることから、
吸血後であることがわかった。

 

「もうお遊びの時間はおわりだよ」

 

ダーク・タ〜は、用意してきた殺虫薬を
トコジラミにめがけ容赦なく噴霧した。

しかしこれで戦いが終わったわけではない。
旅行者は次から次へとやってくるからだ。

 

ホテルでの戦いを終え、
車で帰路につくタ〜隊員が赤信号で停車すると、
横断歩道を外国人旅行者のファミリーが
笑い合いながら渡っているのを目にした。

タ〜隊員は、思わずそのキャリーケースを睨みつけた。
キャスターにしがみつくトコジラミと
目が合ったような気がした──。

 

敵はいつまた、やってくるかわからない。
これからも見守りは続く。

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