第15話 【ペストバスターズ番外篇】人に歴史あり、誕生に秘話あり ペストバスターズ創世記を知る ミスターXの独白<後篇>

動き出したペストバスターズ!
しかし課題は山積みの粗削り

「これでよかろ?」

「なんでそんな面倒なことを……」

「これでよかろ?」

前回では、この事業誕生に携わった男・ミスターXこと中島千尋が、
大手住宅メーカーでの就職に失望し、どん底の生活を経験し、
そして旧縁の誘いにより「ペストバスターズ」を発足させるまでの話をした。

しかし、スタートしたばかりのペストバスターズは、
担当する一人ひとりに“俺流”のやり方がある、粗削り。

よって先の
「これでよかろ?(九州弁で「これでいいだろう?」の意)
のやり方が当たり前になっていたという。

申し送りのずさんさ、仕様書に対する抵抗。

(これでよかろって……何がよかろうもんか)

中島は苛立った。組織としてこれでいいはずがない。
しっかりとした事業を展開していくには、あまりにも感覚値に頼りすぎる。

が、従来のやり方が「正」であれば、
中島の提案は「誤」であり「異物」として嫌われた。

そこで中島は、腹を括った。

「そんなら、徹底的に
嫌われ者になってやろうじゃないの!」

この業界の一流になってやるという、
中島の戦いがはじまった。

 

「この業界で認められるには」
中島がめざしたのは「食品工場」

中島は心に決めた。

(めざすべきは、食品工場だ)

初期の粗削りのペストバスターズであったとしても、
できる限りの能力を奮っていたことには間違いない。
決して手抜きをしていたということでもない。

しかし一人ひとりが“職人すぎて”、組織として一定の品質を提供できないことと、
対価も「いいよ、サービスしてやっから!」という厚意などもあり
価格もまちまちなところがあった。

でもそうじゃない。
中島が思うサービスとは、その時々の職人の気前で値段を安くすることなどではなく、
誰に対しても一定の品質を提供できるということなのだ。

その安定供給と値段設定、ここからの着手であるため、
とてもではないが「食品工場」への参入は無理であった。

なぜ食品工場なのか──。
ある意味で害虫獣駆除の最高峰といえば、食品工場に尽きる。
それは、圧倒的な規模と、圧倒的な食品を生産しているからだ。

ここで認められれば、個人経営を含む小さな飲食店に対しても、
十分なクオリティを提供できる。

中島は食品工場への参入を目標に、社内の嫌われ者に徹することにした。
大手がやっていることを勉強し、それを自分たち流に昇華させる。
とはいえ、日々の業務が入ってくる中、少数精鋭での対応が精一杯でもある。

(どうせ嫌われ者になるなら、
いっ時、無理を強いてでもやるべきだ)

そんな中島の思いが通じ、ある食品工場が契約をスタートしてくれるという連絡がきた。

(よっしゃ!!)

しかし、そう喜んだのはほんの束の間。
当時のクオリティでは到底太刀打ちできるクオリティには達しておらず、
契約はあっけなく解除されることとなった。

中島は熱鉄を飲む思いで事態を受け止めざるを得なかった。

それでも一流の仕事をめざすという思いは捨てきれない。

(うちには何が足りないのだ。
技術か、気配りか、アイデアか──)

悶々とする日々ではあったが、急場凌ぎの秘策はないと心得、
また一から丁寧に組み上げることに徹した。

そして、「食品工場」の安定的な依頼にこぎ着けたのは、
なんと10年もの歳月を費やすこととなる。

 

さいごに、俺の遺言──。
「一人ひとりが営業できる力をつけてくれ」

中島は「営業」という名の、矢面に立つポジションを何十年も担当してきた。

だって……、
その嫌な役どころを当時の誰が引き受けただろうか。

新規を取ってくるという華々しい業務だけではない。
なんなら「クレーム処理班」でもあったのだ。

わかってくれとは言わない。
が、一緒に推し進めてくれる仲間が出てきてくれないかと心底願った。

それは、自分自身の体力、気力の限界はもちろん、
年齢を重ねることによる焦りでもあるからだ。

そんな時にやってきたのが「タカシ隊員」だった。

彼の前職は、大手家電量販店の販売員。
話術や接客も含め、利益を真っ先に考えられる営業マンだった。
初めて自分の考えが通じる人物の登場に、
中島は心が救われる思いを感じたという。

そして嫌われ者ついでに、実際に現場に出る業務部と、
中島が率いる営業部を合体させ、
「環境衛生事業部」を断行したのは中島の「遺言」でもあるだろう。

(とにかく一人ひとりが現場で的確な対応をしてほしい)

その中島イズムは、現在の隊員に浸透しつつある。

「まだまだですよ」
と中島は言うが、これほどまでの熱い想いは、岩をも溶かすはずだ。

とはいえ、「嫌われ者」と語った中島に対する反発も根強いだろう。
その者たちにとっても、自身が思う主張や正義があって然りだからだ。

 

こうして革命期を迎えたペストバスターズ、引いては害虫獣の駆除業界。
この思いがあれば、必ずや明るい未来は開けると確信する。

 

いずれにしても、
中島に「遺言」とまで言わしめた人生を賭けた想いは、決して無駄にしてはならない。

 

恐怖に慄く我々のために、これから頼むぞ、
中島率いる精鋭ペストバスターズ!!

 

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