ビルの命を守る〜ビルディングドクター雨宮の仕事の流儀〜

人間の健康を見守る存在として「医師」がいるように、ビルの健康状態をチェックし、修繕箇所があればその対処を行い、今後のライフプランをともに考えるというビルのための「医師」、それがビルエンジニアリングの仕事です。今回は三洋ビル管理にてビルエンジニアサービスを手がける一級建築士・雨宮孝樹さんのこれまでのキャリアを、ビルの健康を見守る「ビルディングドクター雨宮」という主人公に置き換えて説明します。

健康状態を把握して、適切に対処

福岡のビルの健康をみまもり13年。東京でビルディングドクターとしての腕を磨き、この街に赴任した雨宮だが、街の姿や形は違えども、そこに佇む「患者たち」を愛する想いに変わりはない。 「定期的な健康診断(日常点検/定期点検)を通じて、患者さんの状態を把握するのが私の主な仕事。そこでもし問題が見つかった場合にはその病状を正確に診察し、軽微な問題であればすぐにそれに対処します。万が一重篤な場合には、患者さんのご希望に沿ってオペ(修繕工事)の計画を練り、措置を施します」 普段の生活状況にもよるが、ビルという患者が健康不良を訴える周期には一定の傾向がある。それを把握しておくことで、ある程度の病気の予見ができるのだという。 「もちろん患者さん年齢(築年数)や活動状況(ビルの使用状況)によっても変わってくるのですが、10歳頃になると電気、空調、給排水といった設備部分の整備、部品交換が発生し始め、12、3歳になると外壁の傷みの治療が必要となります。15歳から20歳では大規模な手術(修繕工事)が必要になるのですが、その時点で十分な予算がない場合には、その時期をずらしたり、規模を見直したりという調整をしながら、無理のない対策を行うための適切なサポートを行うことも、私たちの大切な役割です」

患者からの信頼を勝ち得るために

これまで多くの患者の命を救い、いまや福岡中のビルから頼られる存在となっている雨宮。その信頼を象徴するのは、彼の持つビルディングドクターとしての称号・一級建築士である。 「一級建築士でなくても、ビルディングドクターになることは可能ですが、それを持っていることで建築基準法や消防法といった法律の相談に適切に答えられる医師であるという信頼が増します。また一級建築士として知識をフル活用することで、病状の説明に厚みが増し、スピード感のある対応ができるようになります。自分のためのステータスというよりも、患者さんを救うための知的財産という意味で、大きな武器となっています」 患者から頼られる医師であること——。それこそが、雨宮が医師としてもっとも大切にしてきた想いである。しかしその理想に近づくために必要なのは、絶妙なメスさばきでも資格でもなく、患者の心情を思いやる「心」だと熱く語る。 「以前担当したお年を召した患者さんの健康診断をした際、かなり重篤な疾患がみつかったことがありました。私としては、すぐに大きな手術(改修工事)が必要な状況と判断しましたが、この患者さんには、過去の検査や病気に関する診断記録や、そもそもの履歴(構造計算書)がなく、手術の方向性を決めるデータが圧倒的にかけていました。加えて、この患者さんには、これまでともに生きてきた多くのファン(利用者)がおり、手術によって味のある風貌が変わってしまうことに不安を抱いているようでした」 そこで雨宮は、あらゆる角度から再度細かく健康状態をチェック。現状を詳しく把握し、新たな記録(構造計算書)として起こすことで、患者さんの現状や治療方針、さらには治療費に関する計画的なプランなどを納得いくまで説明していきました。 「この患者さんの場合、適切な措置の時期と手法を見直したことで、緊急の大手術を回避することができました。重大な疾患が見つかったからといって、すぐに大きな治療に臨むことができない事情を抱えた患者さんもいます。一人ひとりに寄り添い、ていねいなコミュニケーションを通じて患者さんの不安を取り除くためのヒントを得ること。それができてはじめて、ビルディングドクターとしての信頼につながるのです」 今やベテランドクターの領域に達した雨宮。彼がこの街に住む多くの患者たちから頼られ、彼を慕う多くの後輩ドクターの憧れとなっている所以がここにある。

PROFILE

エンジニアリング事業部
雨宮孝樹(2009年入社)
一級建築士
一級建築施工管理技士
一級管工事施工管理技士

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