洗濯物をハンガーに掛けさせたら日本一!?「そうです、私が業務用クリーニングの工場長」

ある日の、本コラム編集会議でのこと。「次回の取材対象者はうきは工場で稼働している、自社のリネン工場の工場長。この業務用クリーニングに就く前は清掃業務の担当だったんですけど、どんな汚れた物でも嫌な顔をせず、素手でいっちゃう凄い男なんですよ」という触れ込みがあった。さぞやワイルドな人物なのであろう。我々もワイルドにインタビューしようと試みた。

我社に自社リネン工場が誕生した

「あの〜私で記事になりますかね……」。取材当日、やってきたのは物腰の柔らかな、そして色の白く爽やかな──そう、洗いたての木綿のシーツのような男性だった。が、ワイルドさを引き出そうとインタビュアーが果敢に挑む。「面白い部分を探っていきますよ」と。しかし暖簾に腕押し、「面白いことを言うの、苦手です〜」とはにかむ。そうか、この方はワイルドなのではなく、実直で優しく、ひたむきな性格なのだ。そこで作戦を変更し、真面目に、ストレートに、この人物と業務内容を探っていくことにした。

重松直人工場長、42歳。妻あり、二人の子供あり。高校卒業と共に三洋ビル管理に入社すると、清掃業務の担当として社会人生活をスタートさせた。控えめだが与えられた業務にひたむきに取り組む姿勢が買われ、その後2010年に立ち上げたリネンの自社工場のオープニングスタッフに抜擢される。

立ち上げ当時の状況を訊くと、スタッフは4〜5名であり、現在のうきは工場の規模の1/5ほどの狭いところだったようだ。少人数であったため、当初は依頼主の元に自分で引き取りに行き、洗濯・乾燥・たたみ・ハンガー掛けなどの一切を行い、また自分で納品も行っていたそう。しかし受注は着実に増えていき、わずか1年半で工場は手狭に。今では日本で数少ない最新機器を導入した工場となり、総勢130人にも及ぶ施設の長となった。

扱っている主な物は、
◯飲食業・航空会社
調理服、エプロン、タオル、ダスター類、スーツ、着物類一式、シャツ、ブラウス、パンツ、スカート、キャップ 等
◯製造業
作業服、無塵服、整備服、作業ツナギ 等
◯医療・福祉
看護衣、介護衣、療養着、寝具、タオル、クッション、抑制帯 等

業務用のリネンをクリーニングする工場──。なんとなくイメージはできる。しかし、日々どんなスケジュールで仕事をしているのだろうか。

【リネン工場長ある日の1日】

8時 出社
・突発の休みの人がいないかを確認
・前日と本日の生産数量の確認
・機械にトラブルがないか点検

9時 ♪キンコンカンコン という始業のチャイム
・5つの工場建屋をまわり、従業員に声掛け
・作業遅れがあれば手伝う

12時 お昼休憩
・子どもたちのお弁当がある日はお弁当持参!
・食堂でスタッフと談笑

17時 終業
・各所の点検
・戸締まり

ここに書いていない業務といえば、工場長は営業マンでもある。よって、お客様との折衝などもあり、単に工場内の作業内容の確認や実績のチェックをするだけではない。時には作業スタッフにもなるなど、なかなかの多忙を極める仕事だ。

なにはともあれ、工場長の人柄

「クリーニング工場の仕事の中で、一番好きな作業はなんですか?」──唐突にこんな質問を投げかけてみた。すると「ハンガー掛けが好きです」と答える。「ほう、ハンガー掛けですか。つまり乾燥した衣類をハンガーに掛けていくんですね?」と問うと「いえ……乾燥といっても、生乾きの状態のものなんです。完全に乾いてしまうとシワが伸びないので。ハンガーに掛けてからトンネルフィニッシャーという機械で完全に乾燥させます」とのことだった。

しかしなぜ「ハンガー掛け」が好きなのか──「私、人より速くできるんです」と遠慮がちに言う。聞けば、普通の人が1時間で250枚ぐらいのところを、重松工場長は400枚ぐらいだというから圧倒的だ。

その流れから仕事に対する想いを訊くと、こんな熱い話が返ってきた。「お預かりした物はキレイなものばかりではないんですね。なので嫌がる人もいるかもしれません。でも私は元々ビル清掃で汚れた物を扱う仕事をしてきましたので、その精神は変わっていません。誰かが一生懸命使って汚れた物を誰かがキレイにして送り出すのは当然だし、気持ちのいいものです」

さらにこんなことも。「そんな汚れた物を扱う職場ですが、人間関係ではクリーンでありたいと思っているんです。『会社に行くことが嫌だ』という人が一人も出ないようにするという強い想いがありますし、私自身、誰に対しても分け隔てなく接するように心がけているんです」

このリネン工場130名の中には、体に障害のある方もいれば、フィリピンやインドネシアを中心に外国のスタッフも積極的に受け入れている。体を動かせる機能の違いや、言語理解といったさまざまな人が働くこの環境下で、人間関係を含め取りまとめるのは容易なことではないだろう。

仕事も重労働だ。1人に対し5台ほどの洗濯機を担当するそうだが、その1台の洗濯機に約100kg近いリネンが入る。ユニフォームに換算したら250着ほどだ。工場内は常に熱っぽいにおいが立ち込めるほどフル稼働している。1台が終わったらまた1台。休むまもなく洗浄していくのだ。

また、医療用の物を担当するスタッフもいる。医療関連サービスマークで定められている基準での洗濯は、殺菌消毒方法などが特殊な工程となっている。看護服のポケットに出し忘れの物があるかもしれないなど、油断を許さない作業でもあるだろう。そんな特別な職種だといえる。

しかし重松直人という工場長だからこそ成り立つ環境がそこにはあり、受注リネンと共に人間関係もしっかりクリーンな状態にしている。かく言う筆者も、重松工場長の元なら働いてみたいと思わせる天性の人たらしなのだと思う。

そんな熱い話でまとまった本取材だったが、インタビュアーが最後にこう質問した。
(インタビュアー:イ / 重松さん:重)

イ「重松さん、家庭の中で得意な家事といったら、当然『洗濯』ですよね?(笑)」
重「家でまで洗濯……したくないですよね……してますけど(笑)
でも奥さんに、干し方が悪いと怒られます(笑)」
イ「じゃあ、リネン工場の前はビルの清掃だったんですから、掃除も得意なんじゃないですか?」
重「はい……でも清掃する前に、物を収納してからにしろと言われます(笑)」

職場では工場長でありプロフェッショナルであっても、家庭に帰ると奥様の尻に敷かれているごく普通の家庭人。なるほど、この人柄だからこそ成り立つ職場環境なのだ、ということが伺い知れるエピソードである。

工場長、新年の挨拶をする

「おはようございます。改めましてあけましておめでとうございます」

冒頭、このように挨拶した重松工場長。真面目な性格ゆえ、おそらく年末に挨拶文の原稿を書いたことだろう。その際「おはようございます。改めまして……」と言い換えて挨拶するくだりも文章化しているのだろうと思うと、何とも愛おしい。

しかしその内容はというと、どこまでも気遣いの人なのだ。今年の取り組みのひとつとして、改善提案を出して欲しいと伝えている。
「作業している中で『ここがやりづらい』『もう少しこうしたらやりやすい』そう感じることがあると思います。例えば、自分の場合はハンガー掛けを行う際1枚かけた次の品物がすぐ手元にないとものすごいストレスが……」
という具合に。

すべての人にとってより良い職場環境にすることを最優先で気にかけ、その先に生産性の向上があると考えている人物なのだ。例題が、大好きなハンガー掛けというところに、個人的にクスッとしてしまったが。

仕事をする上で何が大事かと問うた時、「仕事は人で選べ」とも聞く。リネン工場を舞台に繰り広げられる日常といえば、恐らく単調で重労働な業務があるに違いない。しかし、この工場長の元で働いていたらと考えると、なんだか楽しそうな毎日が待っているような気がする。“笑いが絶えない”の楽しさではなく、居心地がいいという楽しさだ。

まだまだ若い42歳。今後の活躍が楽しみな一人だ。

 

PROFILE

エルスリネンサプライ事業部
工場長
重松 直人(1998年入社)
クリーニング師
ビルクリーニング技能士

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