社員思いの会社だからこそ、ここまでやれた!? 暑さが弱点のクリーニング工場を全力で「涼しく」

筆者(外部ライター)は、今回の記事を執筆するにあたり、三洋ビル管理が所有する自社のリネン工場を取材させてもらった。

物書き業であるため、当然、三洋ビル管理だけではなく様々な企業の仕事も頂戴している身ではあるが、折りに触れ三洋ビル管理を取材させていただくと、「本当にいい会社だ」と毎度感銘を受ける。お世辞などではなく本当にそう思っている。それは、会長をはじめ、社長、副社長、以下執行役員の経営陣が、圧倒的に「社員思い」であるということに尽きる。

ビル管理・清掃・クリーニングという、言ってしまえば“縁の下の力持ち”という職種柄、それはある意味“地味な仕事”であるからかもしれない。それをいい意味で“わきまえている”からこそ、社員たちに対して素直に日頃の敬意を払えるのではないだろうか。それは筆者の憶測に過ぎないが、いずれにしても、成長著しくもまだ大手とはいえない三洋ビル管理において、これほど多額の資金を投じてまで社員の職場の環境改善に踏み切った企業努力は、涙が出る思いがした。

 

「暑すぎて、もう働けません」、と言わせてごめん

九州で最大級のリネンサプライ・クリーニング工場である、「エルスうきはリネン工場」(福岡県うきは市)。ここでは、医療用の特殊なクリーニングから、飲食店のユニフォームや作業着、寝具といった業務用のクリーニングを手掛けている。

その「クリーニング工場」という業態柄、職場環境は高温に晒される。真夏は、いくらスポットクーラー(当時)を入れても室温は35度であるという灼熱地獄。このような職場環境は、クリーニング工場では“あるある”だということで、業界内では新人の従事者に対し「ひと夏を越えられたら持つ(継続就労)」というのが合言葉のようだ。

もちろん、会社としてこれまでもできる限りの対策を施してきた。たとえば
◯こまめな休憩を確保
・・・お昼休憩以外に、午前と午後にも15分の休憩を入れた
◯冷たい物の無料提供
・・・冷たい飲み物やアイスクリームなどを配った

しかしそれでも「暑さに耐えられません、辞めさせてください!」という人は毎年のようにいたという。

「地方の中小企業だから暑くて当たり前なんていいわけない!」
会長の暑い・・・いや、熱い思いで多額の設備を導入

先述したように「クリーニング工場=灼熱地獄」であることは決して珍しいことではなかった。が、それに対し積極的に環境整備を推し進めたのが、創業者である会長。この思いは社長・副社長も同じであり、それをすぐさま実行しようと動いたのが副社長だ。

1つの建屋だけでも、約400坪もあるという巨大な空間。この室温をいかにして下げられるのか──まず情報収集として、関連する企業や展示会などのイベントに通い精査していった。

ある程度導入したい設備は選定できたが、果たして本当に室温を下げることができるのかは半信半疑だったという。なにせ、“相手”はスポットクーラーを導入しても35度という強敵だ。

しかも、1つだけでも400坪ある建屋を、全体的に冷やしていくとなれば電気代のランニングコストは頭の痛い問題。「室温も下げて電気代も下げる」──この“2つとも下げる”という課題に必死だった。

その時、副社長は閃いた。「そうだ! 潤沢にある地下水を利用できないか!?」

クリーニング工場とは、大量の水を使用することから地下水を汲み上げているのが一般的だ。「エルスうきはリネン工場」でも地下水を利用していたことからの発想だった。しかし空調業者は首を横に振ったという。地下水には各種成分が混ざっており、空調設備の配管に付着し故障の原因になりかねないからだ。

「ならば」と今度は地下水の不純物を取り除く装置を探したという。その甲斐あり、「オリジナルの地中熱(地下水)を利用した空調設備」を完成させたのだ。それが実現できるきっかけとなったのが、下図内にある「エミール」。

快適空間の中で業務用クリーニングができる工場が誕生!
しかも電気代を激減させられたことで、各地から視察も

“真夏の室温35度”という信じられない灼熱地獄だった工場建屋。それが、この「オリジナルの地中熱を利用した空調設備」を導入したところ、室温は25度という快適温度にまで引き下げることに成功した。

しかし気になるのが「電気代」。いくら地下水を利用したからといっても、そこまで電気代に貢献することはないのではないだろうか。

ところが──地下水とは、真夏であっても約18℃というひんやりとした状態であるといい、これを使用することで、なんと前年比4.4%の電気使用量を削減できたというからお見事だ。

それだけではない、先程の図をもう少し詳しく説明してみよう。まず、井戸から汲み上げられた地下水は「受水槽No.1」に貯められ、それを今度は不純物が付着しにくくなる(カチオン効果)装置「エミール」を通過。その後、ファンコイルユニットで熱交換を行い、冷風として吹き出して室内を冷やす仕組みだ。

感心するのはそれだけではなく、ファンコイルユニットで熱交換された水は25℃程度まで温まってしまっているが、これを「受水槽No.2」に送り、給水ポンプを使って今度は洗濯機へ。

実はクリーニング工場で使用する「水」とは、汚れをしっかり落とすための最適温度である35℃の「お湯」にしている。これまで地下水直結だった際は、冷えている水を35℃まで沸かすエネルギーが必要だったが、すでに25℃まで上昇していることで沸かすエネルギーも節制できたという、まさに一石二鳥の結果となった。

この画期的な空調設備は業界内でも話題となり、各地から視察の申込みが相次いだが、実際に同じことをやるには、費用面なども含め足踏みをする企業が多いという。

「今まではお化粧しても無駄だったけど、
今ではお化粧が楽しめるわ〜」という喜びの声

女性スタッフが多いという「エルスうきはリネン工場」だが、先の空調システムを導入する以前は、「お化粧をしても無駄」だったのだ。つまり、暑さから顔中汗だくとなり、せっかく塗ったファンデーションも溶けて落ちてしまうからだ。

よって女性たちは、運動部の学生のようにすっぴんで出勤が当たり前だったという。しかし今ではどうだろう。室温25度であれば、企業のデスクワーカーのような職場環境となり、メイクを楽しむ女性たちが増えたという。

しかも喜ばしいのは「暑さに耐えられません、辞めさせてください!」という理由での退職者は、空調システムを導入してからの4年間で「0(ゼロ)」だったという!

導入前には午前午後と頻繁に休憩を取っていた就労体制も、「作業が止まっちゃうからいらないわよ」という声により取り入れてはいないが、これに関しては毎年意見を聞いてから決めているようだ。

──とここまで、画期的な空調システム導入に関することだけを取り上げてきたが、実はこれだけではなかったのだ。同時に工場の屋根と壁面部分に「シポテックスクール工法」という特殊な断熱材を塗布する施工にて、太陽熱を遮断することも行っている。

これにより、未施工時の屋根表面の最高温度が約67度だったところ、施工後は約38度まで引き下げられている。この施しも室温25度に大きく貢献しているのだ。

このように、従業員の安全で快適な就労環境に余念がない企業であることは良くご理解いただけたと思うが、実はこれだけではまだ満足していないようだ。

副社長は「エルスうきはリネン工場」を訪れるたび、こんな気遣いを見せるという。
「この建屋まだ暑いよね。涼しくなるように増設しようね」

今年も、昨今の異常な暑さの夏がやってくる。
しかし「エルスうきはリネン工場」で導入したオリジナルの空調システムがきっと、頑張る従業員たちを快適に導いてくれるはずだ。

 

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