今回取材を担当させていただく筆者には「オフロケーションの話をします」という情報のみが共有された。しかし筆者は、この「オフロケーション」とやらを知らなかった。 飲み会でコミュニケーションをとる「飲みニケーション」のように、お風呂でコミュニケーションをとる「お風呂ケーション」という造語か? 撮影現場が使用できないという意味での「Offロケーション」なのか? そんなことをイメージしながら取材に臨んだ。が──驚愕した。スゴイぞ「オフロケーション」。 ということで今回は「オフロケーション」という言葉だけでも覚えて帰ってください(笑) 目次「ひと言で教えて!」オフロケーション方式とは「いつから採用?どこでもやってる?」もっと教えて!他社が真似できない「決定的なこと」。それは自社リネン工場の有無三洋ビル管理とエルス、清掃のプロとリネンのプロ。 「ひと言で教えて!」オフロケーション方式とは このオフロケーションという「衛生管理」が実行されているのは、主に病院や介護施設など。ウイルスや細菌を各所に“塗り広げないように”する方法で清掃をしているという。話を訊くのはSBMクリーンサービスグループマネージャー・吉村延国。 ── で、「オフロケーション」という方式。早い話どういうものなのか、ひと言で教えてください! 吉村 はい(笑)、床の拭き掃除は、通常なら1か所拭いたらモップを洗ってまた使いますが、弊社はそれをしない。使ったモップは1か所ごとに交換し、新しいモップを使用する。それがオフロケーション方式です。 ── ほう、なるほど。つまり清掃担当のスタッフは、自分が担当する必要分の新しいモップを持っていくのですね? 吉村 そういうことです。「モップ」といっても、想像されるような糸モップじゃないんですが、使用しているものは「マイクロファイバーモップ」といって、99%近くの微生物(ウイルス、細菌)を吸着するといわれています。 ── すごい!! そのマイクロファイバーモップを使った清掃の流れを、もう少し詳しく訊かせてください! 吉村 病院や介護施設での清掃では、マイクロファイバーモップを使って主に床の拭き掃除に使用します。ロビー、待合室、病棟の廊下、病室、ナースステーション、そしてトイレ。このような箇所を各担当者に割り当てて清掃を行います。 使用するマイクロファイバーモップは主に2種類。1つは青色をした幅60cmの大きいもの。フロアなど広範囲の場所に使用します。もう1つはピンクで幅20cmの小さいもの。トイレ専用に使用します。 このマイクロファイバーモップ自体にも、99%の微生物を吸着する性質を備えているんですが、私たちはさらに「過酸化水素水」という消毒薬を染み込ませて拭いています。 ── …………。 吉村 あれ? ついてきてますか?(笑) ── いえ、凄すぎて驚いていました(笑) 「いつから採用?どこでもやってる?」もっと教えて! 考えてみれば、病院とはウイルスや細菌に感染してしまった患者さんが、それを治療しにやってくる場所。床にウイルスや細菌が付着していても不思議ではない。 それをモップで水拭きしたからといって、「きれいになった」とは限らない。見た目ではわからない“汚染”を広げていることだって有り得る話だ。 ── ウイルスや細菌を広げずに清掃する、当たり前ですが手間もかかるのではないですか? 吉村 ちょうど今日、現場で作業をしてきた「郡山」という部下がいますので、リアルな声を聞いてみましょうか! 郡山 手間ですか? むしろ逆なんです! 格段に手間が減りましたね。マイクロファイバーモップは、大小あわせて1人だいたい20枚ぐらい持って行くんですけど「汚れたら替える、汚れたら替える」とやればいいだけないので。汚れた物を洗いに行って……という手間のほうが時間も労力もかかりますから。 ── たしかにそうですね。せっかくなので、清掃の“コツ”を教えてください! 郡山 はい、拭き方は2種類。ほぼ全箇所でやるのは「一方向拭き」といって、言葉の通り後戻りをしたりせず埃を逃さないやり方です。もう1つは「蛇腹拭き」で、広範囲の場所をヘビがくねくね進むのと同じようなイメージで拭いていきます。 また、特にトイレ清掃では「キレイなものから」を徹底。手すりやボタン周りの消毒拭き上げなどをしてから最後に便器という手順でやっています。 清掃がおわった後は──毎回ではありませんが「ATP拭取り検査」という検査キットを使って、ウイルスや細菌が残っていないかを測定していますよ。 ── (拍手)凄すぎて何も質問が思いつかない(笑)。しかしこのやり方って、病院清掃の業界では当たり前に行っていることなんですか? 吉村 そうですね。ただ、これには難点があるんです……。 ── 難点!どんなことですか? こんなに徹底した衛生管理、どこの病院でもやってほしいです。 吉村 実は先程のマイクロファイバーモップ。これを「オフロケーション方式」で清掃しているって言ったじゃないですか。しかしオフロケーション方式の唯一の難点は、「洗濯」をしなければいけないことなんです。弊社での1日のモップ使用量は約1,000枚。これだけの大量のモップを毎日洗うとなると・・・ねえ。 他社が真似できない「決定的なこと」。それは自社リネン工場の有無 三洋ビル管理には、エルスうきはリネン工場を保有し、自社でリネン工場を運営している。つまり、清掃で汚れた先のようなマイクロファイバーモップも、この自社リネン工場で洗浄しているということだ。自分たちが使った物を自分たちで洗うことができるということは、オフロケーション方式の導入に多大な影響を与えると先述している。 ── やはり自社リネン工場がないと、オフロケーション方式の清掃は無理でしょうか。 吉村 難しいでしょうね……。自社リネン工場がなければ、毎日使うモップを洗いに出す費用が発生するじゃないですか。おそらく、ひと月で何百万という金額になると思います。それはなかなか捻出できないからね〜。 ── ということは、御社は完璧な態勢ということですね!! とはいえ、ウイルスや細菌が付着したマイクロファイバーモップを洗うリネン工場も、それなりの受け入れ態勢がないとできないかと思いますが……。 吉村 それではここで、リネン工場のマネージャー、エルスリネンサプライ事業部 事業部長の江口慧輔に代わりましょう。 ── 江口さん、毎日大量に汚れたマイクロファイバーモップを洗う。これについて教えてください!!! 早く聞きたい!!! 江口 あはは(笑)、お答えしますね。うちのリネン工場では、病院で使用する物も扱っています。患者様が使用する寝具や、看護士さんのナース服などもそうですね。 やはり病院の物を扱うわけですから、工場内でも建屋が専用にあります。洗い方も、指定された洗い、乾燥や殺菌方法になりますね。 今回は「マイクロファイバーモップ」の話だけをしますが、ウイルスや細菌だけではなく、糸くずなどのゴミも付着していますので、専用の洗濯機を使って洗浄します。 ── ここまでは理解しました! しかしこれだけ汚れた物、相当洗わないと次にまた使える状態にはなりませんよね? 江口 言ってしまえばそうですね。定められた基準に従ってやるのですが、自慢すべきは「それ以上のことをやっている」ということですかね。 ── 勿体ぶらないで早く教えてください!! 江口 はい(笑)、9つの消毒方法が指定されていて、代表的なものが次の3つ。 80度のお湯で10分間の洗濯 次亜塩素酸を入れて30度のお湯で5分洗浄 100度以上の蒸気で10分間乾燥 このうちの1つを採用すれば良いとされているんですけど、うちのリネン工場では、これを全部やっています。 ── え!!!!! これを全部やっているんですか? 江口 はい、全部やっています。二重三重で徹底的に殺菌し、完全に衛生的な状態にして使用しています。 ── これは自社リネン工場がない清掃会社さんではできないですね……。 三洋ビル管理とエルス、清掃のプロとリネンのプロ。 この連携があるからこそ「オフロケーション方式」という、他社が真似のできない徹底した衛生管理がなされるということがわかった。 しかし個人的には、この徹底した清掃をしている病院が全国でもっと増えてくれることを願う・・・というのが筆者の感想なのだが。
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