その正体を暴く!!名探偵コナンばりに 真実を見抜く力を備えた、特殊建物の清掃責任者とは!

「清掃」と一括りで解釈するのは実に安易だ。なぜか?──ただ単に、拭いたり掃いたりゴミを捨てたりという作業だけではないからだ。よく考えれば、自宅の清掃だってそうだろう。換気扇にこびり付いた油汚れ、浴室の床のカビ、尿石で黄ばんだ便器。そうした対処の仕方に頭を悩ませているのは、清掃のプロフェッショナルも同じだ。建物内での業態によって、建物に使われている材質によって、その時々の対処がある。

今回は、筆者が出会った凄腕の清掃担当者を「その時の感動のままに」、NHKのドキュメンタリー番組風にカッコつけて紹介してみたい!!  

プロフェッショナルが博物館にかける「情熱」

「福岡市博物館」。

1990年10月の開館とあり近代的だが、正面からの出で立ちは、まるで「迎賓館赤坂離宮」を思わせるような荘厳さ。両翼を広げたような圧倒的な外観は、目の前にまるでプールのような大きな池を有し、それが鏡面となって建物をより大きく、優美に投影している。

背後には福岡タワー、その先には博多湾を望む好立地は、年間を通じて多くの来場者を引き寄せる。

その重要な建物の清掃という責務を担うのが、清掃責任者・尾崎宏一。 

 

「博物館って、いつ行ってもクリーンなイメージがあるじゃないですか。
つやつやでピカピカというね。
澄んだ空気といいますか、澄んだ心で展示物を見て欲しいという思いで
我々は日々、清掃業務と格闘しています」

まだ新しい建物という印象が残る「福岡市博物館」だが、気づけばもう30年も経つ。当然のことながら材質なども経年劣化していく中、竣工当初のように軽く拭けば元の輝きに戻るものばかりではなくなった。

その中でも、尾崎がひと際頭を悩ませているのが、エントランスに敷き詰められた「石」。

重厚感と非日常感をもたらす設計演出は見事で、訪れる者を魅了する。しかし、その材質ゆえに汚れとの格闘もまた、日々ドラマが繰り広げられているようだ。 

福岡市博物館では、『古代エジプト展』や『独眼竜 伊達政宗展』などスケールの大きな特別展示が毎年話題となるほか、大人気を博した『「鬼滅の刃」吾峠呼世晴原画展』、また最近では、全国初の展示物を誘致した『鈴⽊敏夫とジブリ展』など、子どもたちも喜ぶヒット展示を継続している。

しかしその喜ばしい背景には、来場者の多さによる靴汚れはもちろん、時には誤って色の付いた飲料をこぼしてしまうお客様がいたり、展示物の搬入時についたオイル汚れなどが付着することもまた事実。

そこは、尾崎の腕の見せ所だ。

「ついた汚れが何なのか、これを解明するところからはじめます。
ジュースなのか、チョコレートなのか、機械油なのか。
その成分を突き止めることが第一歩で、
それに合わせて的確に染み抜きができる薬剤を選び、復元に努めます」 

 

真実を解明する──まさに名探偵コナンの名台詞のような推理のもと、そのシミと対峙するのだという。

思い出すのは、「エルスうきはリネン工場」を取材した時に聞いた「クリーニングは薬剤を調合して行う化学なんですよ」という言葉。それと同じことを尾崎は口にする。

「シミの正体がわかったら、修復に貢献してくれる薬剤を選びます。
しかし、問題はそこから先。
強力なものを使ってシミは完璧に落とせても、
今度は石の一部分まで白くしてしまうおそれもあるんです。
この調合の最後の砦は、経験と勘しかありません」

現在、このエントランスという大事な部分を担当できるのは、責任者・尾崎だけ。
その後継スタッフを育成するべく、付きっきりで指導にあたっているという。  

 

季節は秋──紅葉の美しさの影に裏方の努力あり

福岡市博物館は、敷地面積5万平米超、建物面積1万平米超。これをオープン前の早朝に、8名のスタッフで日々清掃業務にあたる。9時半のオープンの時間には、仕上がった、磨きのかかった、つるつるピカピカの“博物館の顔”でお客様を迎える。

それだけでも、毎日相当なスピード感とクオリティの高さを必要とされるが、「秋」特有の作業が加算されるのだという。

「紅葉は私も好きです。
しかし、この博物館の景観を守るという点では悩ましい存在でもあります。
美しい池の水面に、たくさん落葉するんですよ。
これを取り除く作業は・・・正直しんどいですね(笑)」

博物館とは特別な場所。毎日訪れる場所ではないだけに、その日その時の印象が大事になる。「今日は汚れているが、明日には」など通用するはずもなく、一期一会の気持ちでその時にできる完璧をめざしていく。

「とはいえ落ち葉なので、取り除いた直後でも、
風が強い日にはたくさん落ちることでしょう。
それでもできる限りのことをして、水面の美しさを保つようにしています」 

秋、という季節だからこその手間暇と苦労。博物館はいつも、何事もなかったかのような顔で佇むことが“務め”であるものだが、その影に冬が迫る凍るような水の中に入り、落ち葉と格闘している清掃スタッフの苦労に少しだけ思いを寄せてほしいと願う。

建物というハードなものであっても、人力──特に情熱や愛情というマインドをもって手を施さなければ、同じ姿で在り続けることはできないのだから。

「池に入ると、年々気温が上昇していることがよくわかります。
水かさが減ってきていますし、それにより藻の発生などにより
汚れがひどくなっているので清掃が大変になってきました。
地球温暖化を、こうした形でも感じています」  

 

最後に訊く「尾崎さんにとって清掃とは」

話を聞けば作業内容は重労働続きだ。しかし、飄々と語る尾崎は、どこか楽しそうにも感じた。筆者は最後に訊いてみた。「尾崎さん、清掃の仕事、まるでゲームを攻略するような楽しみ方に感じたのですが」

終始柔和な笑顔で話す尾崎の顔が、ひと際ゆるんだ瞬間だった。

「そうかもしれないです(笑)
シミの攻略の仕方、落ち葉の攻略の仕方、
日々『こうやったらよかった』など、自分のやり方に悔しがったりしています。

基本の清掃を完璧に行うのは当たり前で、
“それ以上のミッションを自分自身に勝手に与えている”、
そんな感じです。

だって、毎日汚れ方は違うし、毎日劣化も進んでいるんですから、
その日の攻略法を編み出して最善の方法で戦わないとですよね。
そういう意味では、
ゲームを楽しんでいる時のような愉悦と達成感に似ています」 

清掃がゲームである、とは筆者が誘導して言わせているものかもしれない。しかし、誰から言われるでもなく自分自身にミッションを与え、それを“攻略する”意気込みで取り組むという人物がいるからこそ、博物館は博物館然として存在できるのだと思う。

 

イギリスの「SKYTRAX社」が毎年発表しているランキングによると、羽田空港は世界550以上の空港の中で“最も清潔な空港”であると発表している。それもまぐれの一度きりではなく、ほぼ毎年といっていい。なんなら2023年も1位を獲得している。

 

残念ながら博物館の清掃ランキングという発表はないが、尾崎さん、あなたがいる限り「福岡市博物館」は、私の心の中ではずっと1位だ。  

PROFILE

不動産マネジメント事業部
尾崎宏一(2010年入社)
ビルクリーニング技能士
清掃作業監督者

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